科捜研の女~渡り蝶の秘密(8)最終章

「実はね 僕、君に嘘をついてたんだよね。 6年前…。」と、花森教授。

「アサギマダラの事… ですよね? それなら最初から知ってましたよ。 先生。」と、あすか。

「えっ?」
「だって あのマーキング、私の字じゃなかったから。」

「700キロ近く 飛んだんだね。」

「でも 私 嬉しかったんです。」(あすか)
「私は独りぼっちじゃない。 みんなの優しさや 思いやりに支えられてる。 初めてそう気づく事ができたから。」
「あの時から私の世界が変わったんです。」

「花森さん!」(礼子)

「バレちゃってたよ、僕たちのお芝居。」(教授)

「アハハッ。 やだ… もう~。」(礼子)
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6年前、アサギマダラのマーキングに使ったペンをあすかは大切に保管していました。ペン先から、当時の鱗粉が微量に採取できました。 その鱗粉のDNAを鑑定したところ寄付金が入っていたバッグに付着していた鱗粉と同一個体のものでした。

6年前あすかさんが放した蝶は…。

(花森の声)「遠くへ… 種子島より ずっと遠くへ渡ってたんだ。」

「1200キロの海を越えて沖縄本島まで。そして 2つの人生を結びつけたんですね。 生い立ちも境遇も全く異なる2人の若者を。」

・・・昆虫には世界を美しくする力がある。・・・
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「お前は、物心つく前に母親を病気で亡くしている。ヴィーラント症候群だったそうだな。 同じ病気と闘う少女を助けたかったのか?」(土門刑事)

「なんの話?」(平良圭介)

「6年前、お前は敵対するグループとの抗争で怪我を負い生まれ育った名護市の照喜名に戻っていた。 そこで一匹の蝶に出会ったはずだ。」(土門刑事)

「羽に書かれた名前が気になったお前はその名前をネットで検索したんじゃないのか? そして 宮内あすかを救う会のサイトを見つけた。」(土門刑事)

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(回想シーン)

「昨日 国語の授業で大正時代の詩を習いました。 一つの作品がずっと心を離れません。」(あすか)

「わたしみづからのなかでもいい」
「わたしの外の せかいでも いい」
「どこにか“ほんとうに 美しいもの”はないのか」
「それが敵であつても かまわない」
「及びがたくても よい」
「ただ 在るといふことが分りさへすれば」
「ああ ひさしくもこれを追ふにつかれたこころ」
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(刑事)「このネクタイ、エトラ・プレミアの最新作ですね。花森教授は エトラ・プレミアの製品で首を絞められていました。」

「平良圭介の所持品にしては高級すぎます。教授の首を絞めたのは平良とは別の人物かもしれない。 そう思って、大学周辺の防犯カメラを調べてみると、大学に向かってるこの人物、石黒さん、あなたですよね?」

「なんで 俺が大学の先生襲うんだよ。」(石黒)

「教授が 6年前の真相に気づいたからです。 2012年に福岡で起きた現金輸送車襲撃事件。 犯人は平良圭介と…あなただったのでは?」

(刑事)「平良は すでに6年前の犯行を認め供述を始めてます。 今頃は あなたの事もしゃべってくれてると思いますけど。」

(石黒)「オラーッ!」
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「6年前 お前は不良仲間の石黒竜夫を誘って現金輸送車を襲撃8000万を手に入れた。 そして 金は折半して…。」(土門刑事)

「ギャンブルに使ったよ。 人助けなんかじゃない。ギャンブルに使ったんだ。」(平良圭介)

「花森教授が全て語ってくれました。福岡の事件の翌日寄付金を持ってきたあなたの姿をあすかさんの病室の前で見たと。 ヘビの入れ墨が印象に残ったそうです。」(マリコ)

「後日 教授は テレビの情報番組で福岡の事件の詳細を知った。 8000万を奪った犯人の一人にヘビの入れ墨があった事実を。」(土門刑事)

そして 6年が過ぎ…。
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(回想シーン:花森教授が、平良圭介を探し出し会いに行く)

「前に 一度 会ってるよね?」(教授)
「なんだよ? おっさん。」(平良圭介)
「君に聞きたかったんだ。 6年前の福岡での事。あっ、そうだ。 一度 僕の研究室に遊びにおいで。」(と教授は、平良に名刺を渡す)
「圭介さんなんなんすか? あいつ。 俺らがやった事バレてんじゃないっすか。」(石黒)
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(取調室で)

「6年前の犯行が花森教授に知られている、そう思ったあんたは彼の口を塞ごうと考えた。」(刑事)

「俺がやるしかなかった。 うっ!」(石黒)
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(別の取調室で)

「花森先生?」(平良圭介)

「花森教授は、自分を襲ったのが あなただと勘違いしていたそうです。 だから 目を覚ましたあと何も語ろうとしなかった。 あすかさんの命の恩人を警察に突き出したくなかったんですね。」

「4000万はギャンブルに使った。 お前 そう言ったな?」
「宮内あすかが生き抜くほうに賭けたのか?」(土門刑事)

「彼女が生き抜いたら自分も生まれ変われる。 時々 変な感じがする。 昔とは別の世界で生きてるみたいな…。 何も変わっちゃいないのに。」(平良圭介)

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(平良が仕事場で逮捕され署へ向かう途中、あすかのジュエリーショップの前で車を止める。悪事を働いて手に入れた大金だが、その全額を難病と闘う少女のために使った・・・平良に対し、土門刑事のせめてもの温情がそこにある・・・)

「あなたにとってはあすかさんがアサギマダラだった。」(マリコ)
「何を語るかは お前の自由だ。」(土門刑事)

うながされて、平良がゆっくりと店に入っていく・・・。

「いらっしゃいませ。 どうぞ お手に取ってご覧ください。」とあすか。

「俺の手… 汚い。」(平良)

「どうぞ。」「前にも 一度いらっしゃいましたよね? まだ 私が働き始めた頃。 あの時も すぐに出ていってしまわれたけど。」

「なんで覚えてんだよ。」

「海のにおいがしたから・・・」

~おわり~

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