英国のチョウ類保全活動について

去る2月14日、日本チョウ類保全協会の主催による英国・日本を結んでのZOOM講演会が開催されました。
メインの講演者は英国のチョウ類保全協会(Butterfly Conservation)の前最高経営責任者Martin Warren氏で、英国のチョウ類の現状とその保全活動等についての約2時間の講演でした。英国のチョウ類の保全活動は、今でこそチョウ類の保全の先端を走っていますが、以前は各種が滅びゆく状態が続いていました。1990年代からわずか四半世紀余で、英国全土を網羅したモニタリングや、大規模な草原の環境の再生までを牽引したのが同氏です(なお、写真はチョウ類保全協会に掲載の了解の確認をとりました)。

英国の自然環境は日本に比べるとやや変化に乏しいところもあって、チョウの種類も約70種(日本は約240種)と少ないが、近年では全体の3/4のチョウは減少傾向にあり、その45%は絶滅が危惧されている。また、既に5種は絶滅してしまっている。その原因はチョウの生息地の環境の変化(悪化)によるもので、具体的には使用放棄された土地の荒廃・気候変動・農薬等の化学物質による汚染等様々な要因があげられる。自然環境の中で、チョウ類は鳥や植物などよりも環境変化の影響を受けやすく、減少のスピードが速く、その保全が必要である。
そこで同協会は会員のみならず広く一般市民も参加しての様々な保全活動を展開している。ボランティア(実地に種類・個体数などを定期的に記録する大勢の人たち)などとともに保全が優先されるべき種類・地域を決めて実態調査を行い、また農家等の協力も得ながら荒廃したチョウの生息環境の改善を図るなど様々な活動をしている。また、現在は英国のみならず全欧州規模での保全活動にも取り組んでいる。現在同協会の会員数は約4万人、また子供達への啓蒙活動も含め、その活動は男女を問わず一般市民レベルにまで裾野を広げている。その結果、一部の絶滅に瀕した種の個体数を回復させるまでの実績も上げてきている。

今回の講演の締めくくりとして同氏が語った言葉が印象的でしたのでご紹介します。
Butterflies indicate a healthy environment for all of us.
直訳すると、「チョウは、我々みんなにとっての健全な環境が何たるかを指し示している。」ということですが、少し意訳して「チョウは、我々みんなと同じように健全な環境を必要としている」くらいになるでしょうか。    さらに、言えば、

チョウがいること自体が、その場所が我々みんなにとって健全な環境であるという証でもある。

もっと踏み込んで、筆者なりの勝手な解釈が許されるならば、

チョウを「健全な自然環境のバロメーター」として、我々のごく身近にいるチョウの観察を通して周りの自然環境を見直してみよう、という呼びかけにも思えました。

日本においてもチョウ類の減少傾向は英国と同様であり、残念なことに昨年には小笠原にのみ生息する(していた)固有種のオガサワラシジミというチョウが事実上絶滅してしまいました。さらに、絶滅の危機に瀕している種類も他にいくつもあり、今後の日本でも保全活動が急務ではありますが、現在の日本チョウ類保全協会の会員数はまだ800人程度と少なく、英国にははるかに及ばないのが現状ですが、英国の例を見る如く、今後は広く一般の方々の理解と協力を得て一層の発展が望まれるところです。
最後に一言。筆者も単なる昔の昆虫少年でしたが、同協会の存在を知り何かお役に立てないものかと思い、相棒のmatsさん共々昨年入会したばかりなのです。
(Henk)

英国のチョウ類保全活動について” に対して1件のコメントがあります。

  1. Sophia より:

    とてもいい活動をされているのですね。日本では蝶の保全どころか採集目的に仕掛けを作り、標本にでもして売るのでしょうか、そういった仕掛け(法で禁止されているにも関らず)を山奥でたくさん見つけることができる、と以前テレビの特番で放映していました。

    絶滅危惧種ほど高値で売れるそうで、ますますそのような種類の蝶は消えていくとのことでした。
    なので、「ハイム蝶図鑑」でのお二人の蝶博士の生命への慈しみに溢れた蝶たちのご紹介振りには、本当に感動致しておりました。

    蝶のいない冬には蝶の越冬風景?小鳥たちのかわいい姿?写真だからこそ見せていただく事が出来る、感動の小さな命の一瞬の記録!

    これからも素晴らしい活動のご報告を楽しみに致しております。

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