捕虫網とカメラ

先日の山梨でのオオムラサキ撮影の時のことです(この場所ではこんなピンボケばかりでした)。
この場所は案外知られた場所なのか、我々がそこに着いた時には既に捕虫網を持ったかなりの高齢と見える男性が一人いて、私はこの網を見た途端、正直ちょっと複雑な気分になりました。急に白けた気分というのか、さあ写真を撮るぞという、それまでの意気込みが失せかかりました。その後のことを少しお話します。

オオムラサキは採集が禁止されているわけではありません。だから、こちらが写真を撮るからといって網で捕ってくれるなとは言えません。また、言うつもりもありませんが、しかし同じ場所で一緒に仲良くというのはとても難しそうに、その瞬間思ったのです。
まず、こちらから先に明るく(ちょっと無理して)挨拶をして、「もう、だいぶ捕られましたか?」と尋ねると、全く悪びれたところもなく「ええ、7-8頭捕りましたよ。」と誇らしげな答が返ってきました。しかし、彼はそのくらいではどうもまだ満足できてないようですが、我々のカメラを見て「私はまだしばらく捕りますので、どうです、交代でやりませんか?」と提案をしてくるのでした。我々も、この場所を独占するつもりは毛頭ありませんので、ことを荒立てないように「それでは。」と一応返事はしたものの、とても公平な提案とは思えませんでした。彼はここに来るオオムラサキを片っ端から1頭1頭と確実に仕留めていくのです。これはどう考えても交代でこの場所を共有しているということにはならないでしょう。

その後、一緒にいて話して分かったのですが、彼は東京からJRで最寄りの駅まで来て、後はタクシーを飛ばして来ているというのです。また、若い時から海外にもチョウの採集に出かけていたらしく、スマホに入った自作の標本の写真など自慢して見せてくれました。チョウによほどの熱の入れようであることは分かりました。しかし、それほどの人なら、標本にするような綺麗な個体を捕獲したいのなら、網を振る前に狙う個体が捕るに値するものかどうかを判断してもよさそうだし、仮にそれをしなくても網に入った段階で少し翅が傷んでいるようなら逃がしてやってもよさそうですが、見ていると、彼は決してそれはしませんでした。すべて気絶させて三角紙に入れバッグにしまい込むのです。そんなに捕ってどうするの、翅が傷んでいるものなんかは家に帰ってきっと没にしてしまうのでは・・・、と思いましたが、こちらもそこまで声に出して言うのは遠慮しました。ずばり、言ってあげてもよかったかもしれませんが、そうすればおそらく口論になっていたことでしょうね。この人が一日かかってすべて捕っても、オオムラサキの生態に影響を与えるとは思いませんが、彼の順番になった時、一心不乱に樹液を舐めている最中のチョウを網で攫えるように捕ってしまうのにはさすがに違和感を感じざるを得ませんでした。(危ない、早く逃げろ!)と心の中で叫んでいました。

私自身も子供の頃は昆虫少年の一人で、珍しい虫を捕まえた時の感激がこたえられなくて、特に夏休みなどには一日中やみくもに虫を捕まえては殺すということをやっていましたが、彼はそれを今だにやり続けていると思うと、複雑な気持ちになりました。この人はまだ少年のままで居られて羨ましいと思う反面、自分の死がほんのすぐそこまで来ているような年齢になってもまだ虫を殺すことがやめられない業のようなものを背負っているのかという印象を強く受けました。

結局、その日その場所には我々の方が遅く着いたのですが、彼よりも早く切り上げることになりました。果たして彼は何頭の気の毒なオオムラサキを持ち帰ったのでしょうか。

(Henk)

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