ギフチョウに誘われて(雑感)

ギフチョウというチョウの存在は知ってはいたが、数年前までその実物を見たことはなかった。そんな絶滅危惧種が、意外にも筆者の住んでいる所とそれほど遠くないところに棲息していることをある新聞記事で読んでから、「それなら一度は見に行ってみよう。」と思い立ったのが数年前のこと。その最初の年、地図をたよりにきつい山道を登り切ったあとの山頂で見たたくさんのギフチョウの乱舞する光景がいまだに忘れられない。まさに「乱舞」という表現がふさわしいと感じた。

その山の登山口に最寄りのバス停までは鉄道と路線バスを乗り継いで行こうとしたが、現地に行って分かったことは筆者が得ていた情報は少し古すぎたということで、もうそのバス路線は途中までしか届かず、それから先は廃止になっていた。仕方なくクネクネの登りの道(きれいに舗装はされているが)をひたすら歩くことになった。やっと山裾にとりついてから最初はそれほどでもないと思ったのだが、山にあまり慣れてないこともあって頂上までの最後の500mの急斜面が予想外にきつかった。しかし、辿り着いた頂上はまるで別世界のような気がしたのを鮮明に思い出す。その場所では春先には多くのギフチョウが周りから集まって来て、常に数頭、多ければ10頭以上も飛び回っている。そんな状態がずっと見られる。大体チョウは追いかけるとすぐどこかに逃げてしまうことが多かったのに、この場所ではチョウは逃げて行ったりはしないのだ。ギフチョウの乱舞する山頂。そこはギフチョウの雌雄が子孫を残すために年に一度だけ出会う神聖な場所でもあるのだ。実際に、そこでは何組かのカップルも見られる(下の写真は最初の年に撮ったギフチョウのカップル)。そして、万葉の時代から筑波山などでもあったという歌垣(うたがき)が連想された。

しかし、そんなに多くのチョウがいてもなかなかいい写真というのは簡単には撮れないものだ。撮影の腕と機材の優劣はもちろんあろうが、このギフチョウは飛び回った挙句に赤土の剥きだしの地面にベタリと翅を広げてへばりつくように止まることが多いので、チョウ自体は翅を全開にしているのでまるで標本のように綺麗に撮れるのだが、たくさんの足跡が付いた地面が背景ではあまりいい絵にはならない。これまでカタクリの花で吸蜜中の綺麗な写真などをよく見ていたが、頂上にはカタクリの花などない。あるのは赤土の山肌に疎らに生えたスミレか斜面に生えたミツバツツジ、あるいはモミジイチゴの花。それらとのコラボ写真にしてもそう簡単には撮れるものではない。チョウの発生と開花時期がうまく合わないことが多いのだ。mats氏もそれを狙って今年も苦労していたようだ。かと思うと、今年は凄い人に出会った。その人は他の花とのコラボ写真は撮ったことがあるがカタクリとのコラボだけはまだ撮ったことがないということで、山裾の民家の庭先にたった一輪だけ咲いていたカタクリの前に陣取って、カメラの焦点まで合わせてジッと待機しておられた。そのカタクリの花というのがこの一輪。結果はどうだったのか、時間がかかってもうまく行くといいのだが。それがギフチョウの人を引き付ける魅力なのかと思いつつ、そういえば自分も知らぬ間に引き付けられていたことに改めて気付かされた。

そんな苦労をしながら「今度こそいい写真を」という愛好家がなんと多いことか。今年はその山の頂上で、近所の生田緑地でよく出会う二人の愛好家MMさんといつも愛犬と一緒のAさんに期せずして出会った。皆、別々に行動していたのだが、思いもよらぬ場所での出会いにお互いに顔を見合わせ思わず笑ってしまった。なぜ、同じタイミングで、この場所で?という感じだ。考えて見れば、この時期なら誰しも考えるのはギフチョウのことだったか・・・。皆、今年こそ満足できる写真を撮れただろうか。


冒頭の写真はその時MMさんの撮影されたもので、後日送ってもらった。それと一緒に送ってもらったこの大きな目玉模様のド迫力の主はギフチョウ同様に春先だけに現れるイボタガという蛾で、写真を撮れたのは彼も初めてだったらしい。筆者も幼虫は見たことがあるが成虫はまだない。芋虫が嫌いでなかったら、ついでに「こんな幼虫がいる。イボタガの幼虫」を是非ご覧ください。きっとこの蛾の成虫よりもその異様さに驚かれることでしょう。

(Henk)

参考 蝶図鑑 ギフチョウ

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